東京から南房総に移住して早3ヵ月が経ちました。風の図書室を立ち上げてからは2か月。こちらに来た当初は風に揺れる緑の稲穂の美しさに目を奪われていたのが、いつのまにか刈り入れを迎え、すでに我が家ではこちらで作られた新米が食卓に並んでいます。

ぼーっとしている時もくるくる動き回っている時も、同じように空と海が生活にあったなと、今振り返り改めて思い出します。

それに加え、移住前は考えられなかった変化がもうひとつ。生活にアートがあるのです。東京にいる時もたまに美術館などに行ってはいましたが、何というかそれは時間をつくって自ら求めていかないと得られないものだったのです。

それがこちらに移住してからは、日常生活の延長線上にポッと芸術に触れる機会が向こうから現れてくれます。たとえばですが、家から歩いて行ける範囲にアートの展示や映画の上映をしている場所があったり、個人の飲食店で使われている器にこだわりを感じたり、精神性を重視したイベントが開催されていたりと、感性を求められる場や人との出会いがいっきに増えたのです。

ギャラリーやイベントの数でいったら東京は比較にならないほど恵まれた地でしたが、そこで私が覚えているものっていくつあるだろう。よくあったのは、何かアートイベントに誘ってもらい行ったはいいけれど、とにかく人が多くて騒がしくて、さらにやけにおしゃれなんだけど同じような恰好をした人ばかりいたイメージがあります。

それと比較するとこちらの空間的余裕はすばらしいです(笑)。

先日も、偶然見つけた山奥のギャラリーでそこのオーナーの女性と二人、展示作品を前にコーヒーを飲みながらひとしきりお話することができました。もちろん展示されていた作品が素晴らしかったというのが大前提ですが、本当に久しぶりに「芸術に触れ、語り合う」ということができたと思います。

またその女性が言うには、「人は自然の中でこそ創造的になれる」のだそうです。確かに、都会では個人が想像を働かせるような余地がないし、空間的にもいっぱいいっぱいですね。

実際、自分自身が何かを創造しないまでも、創造的な土地にいることで私たちの心や行動は静かに変化しているのだと思います。生まれた時からここにいる人ではない、移住者だからこそ余計に感じられる特典なのかもしれません。