先日、初対面の女性に風の図書室の話をしたところ、近くの山の中にいい雰囲気のお寺があるからそこでできるといいねと言われました。その時は特に意識もせずお寺の名前だけ聞いて終わったのですが、一昨日の昼頃、台風が迫りくる中ふとあのお寺に行ってみようと思ったのです。

山裾の集落の細い道を車で進み、もうこれ以上は危ないというところで降りてそこからは歩き。人の気配がまったくしない山道を、靴を泥だらけにしてなんとか頂上に出ました。

しかし、そこにあるはずのお寺が見当たらないのです。ただ、お墓がいくつかあるだけ。

しばらく当たりを歩き回っていたところ、不思議な空間が見つかりました。民家の入り口のような石積みがされた道を通った先に広がる「何かが違う空間。時空」。一見、雑草が生い茂っただけの周囲から遮られた場所なのですが、やっぱり何かが違う。居心地がいいといえばそうだけど、もっと「無」「虚無」に近いような空気。深く物事を考えられなくなるような感覚。

こう書くと私がまるでスピリチュアルな人間だと思われそうですが、あまりそういうものには縁がなく、いわゆるパワースポットという場所で何かを感じたことは一度もないのです。

またもう一つ印象的だったのが、その不思議な空間の中から見た外の景色。今、自分が入ってきた石積みの先が白く光って驚くくらい美しかった。

ここで私がその空間に閉じ込められ、ようやく出られた時には100歳くらい歳をとっていたという話につながれば面白いのでしょうが・・・何も変わらず普通に出てきました。35歳のいまいちな肌の張りそのままです。

お寺は見つからずじまいだったけれど不思議な体験をさせてもらったと、来た道を戻ることにしました。ようやく山を下りきり、もうそろそろ車を止めた場所に着くというところで大雨が降り出したのです。

とても不思議な気持ちが続いていたのですぐに帰るのもつまらないと思い、近くにあった民家の前の大木の下で雨宿りをすることに。どんどん激しくなる雨を前に、台風なのになぜ山を登ったのだと、今になって自分の無謀さに恐ろしくなりながらもぼーっと立っていました。

そこにいきなり民家から一人の男性が出てきたのです。物音がまったくしない家だったので、まさか人がいるとは思っていなかった私はかなり驚いたのですが、その男性は不思議と私に驚いていなかった。どう考えても、山の中の自分の家の前で女が雨にさらされながら立っていたら怖いと思うのですが・・・。しかもその日、私は喪服のような真っ黒のワンピースを着ていましたし。

「おじゃまさせてもらっています」と挨拶をし、せっかくなので「上にお寺があるはずなのですが、失くなってしまったのですか」と聞きました。改めて文字で書くと、私のこの発言は本当に怖すぎます。

しかしおじさんはかなり友好的で、そこは濡れるからこっちに来なさいと納屋の方に案内してくれました。こう書くと、私もなかなか恐怖を知らない女。

そこで同じく恐怖を知らないおじさんが話してくれた話によると、そのお寺は2019年にこの地域に甚大な被害をもたらした台風が来たときに屋根が吹っ飛んでしまい、去年ようやく解体をしたということでした。そして、私が違う時空を感じたあの雑草の空間こそ、やはりそのお寺の跡地だったのです。

それからしばらくおじさんと立ち話をし、雨もやんできたので帰ろうとしたところ、おじさんはとても綺麗なカボチャとオクラをたくさんくれました。おじさんは片手間で農業をやっていると言っていましたが、どう見ても素人のつくりではないのです。

そしてそのカボチャとオクラを食べた私は、その日から老化が止まり小じわも消え若返っていったのです。という話になれば面白いのですが・・・変わらず今日も35歳。元気です。

そんなこんなで、風の図書室の拠点候補第一号との出会いは終わりました。書くほどのことではないのかもしれませんが、とても興味深かった時間で、忘れたくないので記しておきます。風の図書室は今も拠点探し中です。

※本投稿に写真がないのは、この場所にいる時に写真を撮るべきではないと思ったからです。