割と健康なほうで、二日酔い以外の薬はほとんど飲まないのですが、南房総に移住してから唯一買った薬があります。
「百薬丸」という昔からある常備薬をご存知でしょうか。正露丸と似たような効能と歴史をもっている民間薬のようないっけん怪しげな薬ですが、ちゃんとドラッグストアに置いてあるものです。
昔から祖父母の家に大きな瓶で常備してあり、何かあると、そして何もなくても、ご飯の後は飲まされていました。
子どもにしては結構苦く、また一度に50粒くらい飲まされるのですが(正規量は20粒でした)、幼い頃の洗脳でなんの疑問もなく、むしろポリポリと水がなくても口に入れられるくらい身近な薬だったのです。
もちろん大人になってからは、ほとんど飲まなくなったのですが、こちらに移住して親しい家族とも離れたことで、密かにホームシックにかかっていたのでしょうか。なぜか何十年ぶりに見た懐かしい百草丸を購入している自分がいたのです。我ながら面白い形でホームシックをやり過ごそうとしているなと思いました。
そこでとても個人的なことなのですが、驚きの事実に気がついたのです。百草丸の正式名称は「御岳 百草丸」だったのです。ずっと家では「ひゃくそーがん、ひゃくそーがん」と言っていたので、その不穏な枕詞の存在は知りませんでした。
御岳?おんたけ?何か聞いたことがある・・・
もちろん御岳とは信州にある御岳山のことです。しかし私が引っかかっているのは、何かもっと個人的なもの・・・。
そこで思い出したのが、もう半世紀以上前に亡くなっている曾祖父のことでした。私が生まれる前に亡くなっている「ろくじろーさん」という曾祖父は、御岳教という御岳山を信仰する山岳信仰の師をしていたのです。
そのため聞いた話によると、毎月決まった日には家にたくさんの信者さんたちが集まり護摩を焚いたりしていたそうです。
そこで改めて百草丸のホームページを見てみると、「霊峰御嶽山の自然の恵みと御岳信仰から生まれた健胃薬」と書かれていたのです。
なんということはない話なのですが、まさか自分が小さい頃からずっと体にいいから飲みなさいと言われていたものが、宗教ベースのものだったというのに今さら気がつき驚いているのです。
ろくじろーさんの後を継ぐ人はいなく、我が家の家系でも御岳教はそこで途絶えるのですが、百草丸だけは細々と私の代にまで引き継がれています。
昔から変わらないあのレトロな瓶が一つあるだけで、その一帯が不思議と昭和の香りに包まれます。と同時に、「これを飲みなさい、あれを食べなさい」と言われていた、守られてきた日々に何だか涙が出そうにもなるのです。まったくホームシックです。